お知らせ
:コラム
ナラティブ ~身体拘束解除への取り組み~
長岡病院・湘南の丘で、患者さま入所者さまがどのようなケアを受け、どう過ごされているのか、エピソードをご紹介いたします。
介護施設で過ごしていたBさんは、血尿が続き、発熱や膀胱結石、食欲不振といった症状が次々と現れたため、長岡病院に入院することになりました。治療のため中心静脈カテーテル(*1)が挿入されると、カテーテルを抜かないよう、治療中はやむを得ず抑制着(つなぎ服)を着ていただくことになりました。利尿剤と補液の影響で尿量も多くなるため、スタッフは頻回におむつ交換を行いましたが、案の定Bさんの不快感は強く、昼夜問わずベッド柵をたたきながら「助けてよ、誰か」と叫び続けます。
その後、治療終了と同時にカテーテルを抜去し、つなぎ服も解除したのですが、今度はBさんがおむつを外してしまい、病衣や寝具を汚すことが多くなりました。すると、スタッフの間でBさんに再びつなぎ服を着たほうがいいのではないかという意見が出るようになったため、カンファレンスを行い、声出しやおむつを外す原因について考えました。
まず、主治医と相談しバルーンカテーテル(*2)を挿入して排尿痛をなくし、下剤を変更して排便コントロールを行っていくことになりました。また、声出しについては、Bさんが過ごしていた介護施設ではスタッフと触れ合う機会も多く、寂しいのではないかと推測しました。そこで、毎日リクライニング車椅子に移乗して眺望の良いデイルームで富士山を見ながら昼食を召し上がっていただくことを提案しました。ただ、Bさんは大柄な体型であるため、車いすに乗車の介助に不安の声が上がりました。リハビリスタッフの協力を仰ぎながら、安全に移乗できる方法を練習し、スタッフ全員でBさんの離床を進めていきました。
Bさんがデイルームにいる間は声出しもなく、スタッフと会話を楽しんだり絶景を眺めたりして過ごし、徐々に声出しやおむつ外しが減っていきました。この頃になると、スタッフからつなぎ服を着用しようという声もあがらなくなりました。車椅子に移乗するようになって1週間ほどたった頃、両下肢が浮腫むようになったため弾性包帯を巻きながら離床を継続しました。更に2週間すぎると、Bさんの方から「デイルームに連れて行って」と話されるようになり、そこで過ごすのを楽しみにされている様子が伺えます。
身体拘束は決して行ってはならないことですが、緊急やむを得ない場合は限定的に行い、出来る限り短い期間で済むよう取り組んでいます。安易に拘束するのではなく、ご本人が不快に感じる原因を取り除き、患者さまの尊厳を守れるよう努めています。それには、療養環境を活かしながら看護と介護、病棟全体での課題の共有と多職種の関わりも重要だと考えています。
(*1)中心静脈カテーテル
腕や首などにある静脈から、心臓に直接流れ込む太い静脈へと挿入する点滴用の管のことです。高カロリー輸液や急速な大量輸液を投与する場合などに用いられます。
(*2)バルーンカテーテル
膀胱留置カテーテルともいいます。尿道から膀胱までカテーテルを通して、持続的に尿を排出することができます。膀胱から直接排出した尿は蓄尿袋に溜まります。